題名 おべんとうの中味
名前 陽子ベイツ
国名 イギリス
小学2年生の息子は大のごはん党。英国人の父をもち、英国で生まれ育った彼はフィッシュアンドチップスもローストビーフも大好きだけれど、おすしとおにぎりには目がない。4才の妹と同じくらい小食なのに、おすしは大人の1・5倍は食べられる。
その息子が学校へもっていくおべんとうの中味はサンドイッチ。入学当初、仲良くなったばかりの友だちに海苔巻きのおにぎりを「ヤック」(気持ち悪い)と言われ、さすがに社交的な息子も意気消沈し、以後おにぎりはランチボックスから消えたのだった。
外国文化を学ぶことになった娘の幼稚園で、私はにわか日本文化大使となり、3週間にわたり幼稚園児を相手に折り紙やらお習字の真似事をすることとなった。着物を紹介する日、早起きして慣れない着付けを済ませた後、息子の学校の送りも着物のままで行くことに。学校から徒歩10分の我が家はもちろん徒歩通学。まがったお太鼓も気にせず着物で闊歩する私に、見知らぬ人が声をかけ、通りがかった車はわき見運転で事故を起こしそうになり、通学路に沿って人を集めて歩いた私たち家族は校門の前では人だかり。にわかセレブリティーぶりにまんざらでもない私と娘の横で、
「ママ、恥ずかしくないの?」と息子は言い捨て、校庭へ駆けていったのだった。
 翌日は幼稚園でのおすし作り。園児20人分のすし飯を用意した私は、つまみ食いをする息子に「おすし学校に持っていく?」と聞いてみる。
「うん!」と元気よく答えたのは、乳歯が1本抜けた愛らしい笑顔。以来、おにぎり弁当が復活。息子の変化を黙って見守ることにした私もさすがに耐え切れず、ある日聞いてみた。
「おにぎりのこと、からかう子いないの?」
しばらくの沈黙の後、「何食べてるか聞くやつには、プー(ウンチ)食べてるんだぞっていってやるんだよ」と笑ういたずら少年の口元には永久歯の先端がちょっぴりのぞいていた。

題名 生け花の師匠はドイツ人
名前 横山久子
国名 ドイツ
「はあ、娘時代に習う暇がなかったので…。」これが生け花ができない日本人の私のお答え。
「まあ、なんて残念な…。」これは20年デュッセルドルフで生け花を続けてこられたフラウ・ミュラーのお言葉。
そんなわけで、ドイツ人のご婦人から、生け花を習うことになった私は、週に1回、小さな娘を連れて、隣村のフラウ・ミュラーを訪ねるようになった。
もちろん会話はドイツ語。出来上がった作品をご主人が写真撮影して終了。その次の週には、前回の作品についての詳しい説明が丁寧に手書きで書かれたノートと一緒に写真も添えられる、というドイツ的な仕上げ。お稽古のあとは、ケーキとコーヒーと楽しいおしゃべりに時間を忘れた。途中、息子が生まれ、オムツを抱えて、それでも、ミュラー夫妻は私たちの訪問を何よりも楽しみにして、迎えてくださった。
そんなある日、ミュラー氏が、たまりかねて私に電話してきたことがあった。「あなたは昨日来ると先週言ったのにこなかったのはなぜか。私の愛する妻が、どんなに楽しみに待っていたか、私は彼女の悲しい顔をみるのが辛い。こられないなら、来ると言わないでくれればよかったのだ。」
はっと気がついた、先週「来られたら来ます。」の、曖昧な返事をしたのだった。「来たい気持ちはあるので来られないとははっきり言わない。」曖昧さが彼らに分かるはずがない。
私は飛んでいって心から謝った。言い訳ではあったがこの曖昧な日本式の話し方も正直に話した。夫妻が何処まで理解してくれたのか分からなかった。それでも、お2人に対していい加減な気持ちでいるのではないことだけは分かってもらいたかった。
辛い訪問だったが、家に着いたとき、もう一度、電話がかかってきた。「あなたが日本人であるということを、私たちも忘れていた。違いがあるからこそ分かり合えたときはもっとうれしいのだ。あなたは私たちが日本に授かった娘だから。」
 



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