題名:夢のコンサート
名前: 茨田通章さん
国名:ドイツ |
毎日私は自転車で通勤している。楽器を背負いペダルを踏んでいると
「ドイツで仕事をしているんだなぁ」という実感が涌いてくる。
ちょうど10年前、日本のオーケストラでビオラを弾いていた私は、「音楽の本場で働きたい」との夢断ち難く、ドイツに来た。ドイツのオーケストラに入団してすぐカルテット(弦楽四重奏)も始めた。しかし2年、3年とたつうちにどんどんストレスがたまっていった。ここでは何もかも要領が悪いのだ。4人で集まってはゆっくり楽譜を読み、皆が納得するまで何度も繰り返し弾いてみる。しかもそれだけ時間をかけたことが、本番でうまくいくとはかぎらないのだ。日本では、家でCDを聴き曲を頭に入れ、少ないリハーサルでいくつかの約束事を決めれば、本番ではそれを再現するだけでよかったのだが。
「こんなことは時間の無駄だ。次のコンサートでカルテットは辞めよう。」そう決心した。
そのコンサートは田舎町の小さな美術館であった。なぜかその日の演奏は信じられないほどうまくいった。ふと合った仲間の目は涙でいっぱいだった。客席でも老婦人がハンカチで目頭をおさえているのが見えた。
帰りの車の中で私は、ドイツに来てすぐの頃、家の前であった道路工事を思い出していた。何度も掘り返し、配管し、石を敷きつめて完成するまで半年も騒音に悩まされたのだ。アスファルトにすれば、時間もお金もかからず、車も静かに走れるのに。ドイツ人には、能率的、実用的である以上に大切なものがあるのだろう。ましてや芸術のような精神活動においては、能率を最優先する環境からは、真の創造は生まれない、ということなのかもしれない。
カルテットを辞めなかった私は、今日もガタガタの石畳の道を一足一足ペダルを踏みしめ練習場に向かうのである。
未来の会心のコンサートを夢見て。 |
題名:Heart to heart
名前:山崎准子さん
国名:ケニア |
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治安の悪いナイロビでは外国人が外を歩くことはもちろん、自分で車を運転することも危険である為ドライバーを雇わなければならない。これは少なからぬ負担となるがやむを得ない。
サイモンとは以前の給料の3分の2で契約した。なぜなら外出は週に2、3回だけだからだ。失業するよりはマシと考えたのか彼は契約書にサインしたが、私にはイヤイヤ働いているように思えた。最初の出勤日からニコリともしない彼の態度に、私は憂鬱な気分だった。
そんなある日、ドライバー仲間とメモをしながら話しこんでいる彼を見て、他に条件の良い働き口を探しているに違いないと思い込んだ私は遂に切れた。「ここで働くのがイヤなら辞めて!他にドライバーはたくさんいるのよ。」と強い口調で言った。私の剣幕に驚いた彼は「僕はハッピーな気分で働いている。」と答えたが、頭にきていた私は勢いが納まらない。「口先ではなく態度で示しなさい。でないと信用できない。」と吐き捨てた。
翌朝、多少の後悔とともに暗い気分で玄関を開けると、にこやかな顔をしたサイモンが立っていた。車もきれいに磨かれ、さわやかな1日を過すことができた。きっと当初から疑心暗鬼だった私の心が彼を悩ませ、その言動を萎縮させていたのだろう。つまり悪いのは彼ではなく、この私だったのである。
それ以降私は彼に常に感謝の気持ちを表し、注意すべきことは感情を交えず明確に相手に伝えるよう心がけた。そのかいあってか、彼は控えめだがいつもにこやかに気持ち良く私に接してくれている。車の整備にも余念がない。これが彼本来の姿に違いない。 人種、文化、言葉の壁を超えて、同じ人間同士のつきあいの基本を学んだ出来事であった。
1カ月後、車の中で先日私の疑念のもととなったメモ用紙を見つけた。そこには私が行きたいと言っていた店の地図が書いてあった。 |
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