高校で英語の教師をしていた私が、夫の転勤でロンドンに来たのは1年半前。のんびりする予定が、なぜか学生のかたわら教会のオルガニストをすることになってしまった。
日本の賛美歌とは違うメロディに戸惑いながら、心臓をバクバクさせてパイプオルガンを弾いた初めての礼拝は忘れられない。牧師が英語で、「次の賛美歌は」と言うのを聞き漏らすまいと、耳をそばだてた。さんざんの出来映えに自己嫌悪に陥ったわたしを、教会の人は笑顔で抱きしめてくれた。
毎週木曜の夜8時から始まる聖歌隊の練習。行く前は正直すこし億劫な気持ちになる。が、いったん行ってしまえば、歌とともに腰が動きだす黒人のおばさんや、音楽にかけては少々うるさいおじさんたちに感化され、こちらもノリノリ状態の2時間に。
その一方で、文化の違いから悔しい体験もした。婉曲表現で説明したことが、うまく相手に伝わらず却って怒らせてしまったのだ。帰宅してから感極まってボロボロ泣き出し、夫をビックリさせたっけ。
毎週日曜の午前と木曜の夜が拘束されるのも予想以上にきつかった。イースター、クリスマスといった長期休暇を取れないのは勿論のこと、週末の小旅行もあきらめた。クリスチャンでない夫は、ちょっぴり悲しそうな顔をしたが何も言わなかった。
その代わり、彼らとの一体感は深まった。夫ともども教会外でのつきあいも増え、よく家に呼ばれては何時間もワインを飲みながらお喋りした。いろんな行事にも一緒に参加し、彼らの素顔に接した。イギリス人は冷たいと言われるが、彼らはユーモアに富んでいて(葬式でも笑いを取るのには驚いた)、情に厚い。そんなことを、日々実感できた。
1年前、私はロンドンの地でお客さんだった。いまは自分の居場所がある。自分が必要とされている。そのことが何よりも嬉しい。
わたしは、今日もオルガンを弾いている。 |