| 小中学生の部
子供たちのエッセイを読んでいると、大人たちよりも遥かに深く明確に日本のことがわかっているのではないかと感じてしまう。自分自身の選択や仕事の延長として海外に出る大人と違い、子供にとっては全く未知の世界に投げ出されるわけだから、その緊張と不安とはいかばかりであろう。しかし、子供たちは全身でぶつかり、挑戦し、そしてある時あたかも一見楽々と言葉の壁、文化の壁、人種の壁を越えてしまう。しかし、日本人であることを忘れてしまうわけではない。むしろ、同年代の子供に比して、格段に強く日本人であることを自覚しているように思えるのは、日々、外から日本人であることを思い知らされている結果であろう。
多数の作品の中で、子供たち自身が自らの日本人的なことを評して、「まわりにどう見られるか気にしていた」「間違いを恐れて自分を表現しなかった」「心をひらいて伝えようとしていなかった」など、それぞれに自分の中の日本と向き合い、反省し、克服しようとしている姿が鮮明だった(『ドイツ人から学んだこと』『フォルクスシューレでのお手伝い』)。日本人的思考回路はかなり幼い時期に植えつけられると私は思うが、それが固まらないうちに他の思考回路も経験できるというところが、海外経験者のプラス面なのだ。多様な思考の成果として、自分が日本人であることは認めても、特別扱いを望んでいるのではない。平等に扱われることに満足するのだ。卑屈にならず傲慢にもならず、誇りを持って自分が日本人であることを認め、相手も認められる世代が登場している。
その他の作品も、外面上の相違を比べつつ、その根底にある文化の相違に思い至り、なおかつ、その違いを違いとして受容できる心の広さが際立った。また、彼らの目に映る日本の社会と日本人の暮らしぶりは、対比が明確なのに加え、自我が未成熟なため、思いがけないほどの説得力がある(『QUICKはスローだった』)。
今回、最優秀賞に推したのはBeheim貴士君(9歳)の『TYPISCH JAPANISCH』である。家族で柔道の応援に行き、はっぴ姿の日本人の応援団に組み込まれ、こと細かに応援の仕方を指示されて、思わず「TYPISCH
JAPANISCH(テューピッシュ ヤパーニッシュ)!!」と言ってしまうが、他の国の人からどう思われるか気にしていた自分こそがTYPISCH JAPANISCHだったと気付き、みんなと一緒に大声で「たむらチャチャチャ」と旗をふって応援する話だ。何が典型的日本人なのか、自分の内なる日本人に気付く視点の転換ぶりが鮮やかである。
優秀賞には衣笠美智子さん(15歳)の『一秒マジック』と國島大河君(9歳)の『友達に教えてもらったこと』を選んだ。前者は、学校帰りの道で見知らぬ人とすれ違う時、ボンジュールと挨拶をするかしないかためらう心の葛藤である。自分から挨拶しなければ後味の悪さで、その後、何をしても決まりが悪いのに、しかし、思いきって挨拶したら笑顔で返答された時の歌いたくなるような嬉しさ。ほんの1秒のことなのに、言葉を交わすことの不思議さ。なぜだろう、と自問した作者の答えは「家から一歩外に出れば、フランス語の世界が果てしなく広がっている」ベルギーで、挨拶は外に繋がる第一歩なのだ。そしてそれは未知なる世界、まだ見ぬ将来への第一歩である。國島君の文章は、イギリスの友達から自分の意見を持ち、他人を認めることは、自分を認めることであり、それが自信に繋がることを学ぶ話だが、これこそ真の国際人への第一歩ではあるまいか。彼らの共通点は、自らの殻を撃ち破り、外と繋がろうとする姿勢にある。そうなるまでの心の葛藤はいかばかりであったか、想像するしかないが、大きく羽ばたくであろう21世紀の彼らの将来を想像するのは心踊る思いに捉われる。
審査委員長 作家 深田祐介
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