題名:子羊の群れ

名前:長嶺慶隆さん

国名:イギリス
インタビュー

  昨年の秋に、小学3年生の娘を連れて英国にやってきた。初めて英国行きの話を聞いた時、娘は友達と別れるのを嫌がった。私は希望した海外赴任であり、将来、娘が母国語のように英語を話す、という想像は誇らしかった。娘も当初こそめげていたものの、夏休みには英語塾に通いだし、自分なりに新しい生活の準備を始めた。勤務先はエジンバラ郊外にあり、学校も近くの小さな小学校に決まった。3日ほどは、不安がる娘を家内が校門まで送った。1週間たち、生活も軌道に乗るかと思った頃、夜中に娘が泣き出し、「もう学校へは行かない、日本へ帰る」と言い出した。給食待ちの列を作っている時、不意に男の子に蹴られたという。いたずらな男の子はどこにでもいる。しかし、このショックで娘の中で張り詰めていた緊張や不安が一気に堰を切ったようだ。泣きじゃくりながら、「私、英語を一生懸命やったよ。お父さんは英語を勉強したら友達もすぐできる、って言った」と抗議した。習い事の嫌いなこの子が、初めて通ったのが夏休みの英語塾だった。しかし、ひと夏の知識では簡単な会話さえついていけない。翌日、私は学校を訪ね、娘の入るグループの再編など頼んだ。それから、3ヶ月ほどたち、家内に代わって娘を学校に送って行く時のこと。学校から100メートルほど手前の草はらで娘が「お父さんは、もうここでいいよ」と言う。親がついて来るのが恥ずかしいようだ。娘が草はらを50メートルも歩いて行くと、向こうから4、5人の女の子が駆けて来た、娘もそれに向かって駆けて行く。ぶつかると、楽しそうに肩を抱いて、また駆け出した。新参の子羊が、仲間の群れに入っていくようだ。子ども達は本音の世界に生きている。「こいつは面白い、入れてやろう」とここの羊達は思ったのだろうか。親の都合で海外にきた子ども達は、体面も社交術もない世界で全身を異文化にさらして生活を始める。そんな子ども達が、みなヒーローに思える。
 



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