題名:老人の権利とは?

名前:根本 美紀さん

国名:イギリス

   「今日もバス遅いわねぇ」バス停でのよくある会話の始まり。大概相手は老人である。ここの国の偉いとこは老人がえらく元気で街中を闊歩しているところであるといつも私は思う。今日の相手は奇麗に帽子を被り、お化粧しているおばあさん。ピンクの口紅が可愛らしい。私がバス停に着く以前にすでにこの杖をついたおばあさんがいて、両手に荷物を抱えて隣へたった時に何となくといった感じで話しかけられた。やがてそこへバス到着と共に中学生の団体がやってきて、我先にとやってきたバスに乗り込もうとするとそのおばあさん持っていた杖を振り回して学生に「あんたら後から来て何なの!私とこの子(私)はさっきからいたのよ!どきなさい!」と言って乗り込んで行った。ちょっと剣幕に驚くもそこまでは何のコトはない。たまにある光景。だけど、乗り込んで先に座っていた若者に当然の如く席を譲らせ、さっさと座ると次の停留所で乗り込んで来た老人の腕を掴み、また先に座っていた若者を手であしらいつつどけ、この老人に座らせる。この間無言で作業を続けるこのおばあさん。空いた席にとっさに座ろうとした中学生に向かって「あんた!若いのに何座ってんの!このおじいに譲りなさいっ」と怒鳴りつけ、そのうちまた近場に座っていた人が降りた時また違う中学生がおしゃべりに夢中になったまま座ろうとすると「あんたはまだっ。この子(私)荷物持ってるんだからこの子が座るのっ」と指示を出し、私が座るのを見届け、次の停留所で降りる時、傍に立っていた中学生に腕を貸させて悠々と降りて行った。バスは相変わらず混んでいる。叱られた中学生は相変わらず自分達のおしゃべりに夢中。誰からも抗議も、文句も出ない。お礼を言うのも忘れてしまったけれど、当然と言った感じで去って行くおばあさんをバスから見送りながら思った。あんな風にふるまっても許される環境なら、年を取るのもそう悪くないかもしれない、と。




題名:小さな手     

名前:杉田 真也さん

国名:イギリス

    「ほらね」と、まるで湿疹か何かそんなものを見せるように彼女が袖をめくりあげた赤ちゃんの左手の先には、関節がない豆粒大のものが五つ付いているだけでした。彼女があまりに屈託なく示したので、私は何と言っていいのかわからず、只その明るい雰囲気を壊さないように努めるだけでした。  
   彼女と出会ったのは出産前の母親(両親)教室でした。クラスでは一度隣に座った事がある程度の知り合いでしたが、その日はお互い母親になった事で多少同志的意識もあり、赤ん坊の検診で訪れたクリニックで久し振りの再会を喜び合ったのでした。  
   ピンク色の唇とくりくりした青い目を持つその男の子は、まさにお世辞抜きの“ゴージャス”。そして、そんな男の子を彼女はとても誇らし気にしている様子でした。「六ヶ月になると手術を受けられるのよ。今はそれを待っているの」と、手術の事など話していると、「まあ、かわいい!調子はどう?」と、幼児を連れた女性が会話に加わってきました。するとまた彼女は「元気よ。でもほら」と、赤ちゃんの袖をめくり始めたのでした。  
   「手術が上手くいくといいね」と別れ、クリニックを出た私は、その日の久し振りの青空同様晴れ晴れとした気分になっていました。個々の違いを違いとして主張し、それを受け入れようとする社会。そんな様子を目の当たりにしたので、「ここでの子育ても悪くないか」と、何か吹っ切れた気持ちになっていたのでした。  
   以前はよく人種、文化、言葉の違いで海外での子育てを不安がり、何かにつけて不平を漏らしていた私でしたが、人との違いを恥ではなく誇りに出来るこの社会がだんだんと居心地良くなり、周りと違う息子もきっと受け入れられるという自信のようなものが持てるようになりました。と同時に、あの小さな手を思い出し、あの時戸惑った自分に心が痛むのでした。


 



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