「ノン、アルコ−ル、ビ−ル、あなた持って、います、かあ?」 私の妙ちきりんな英語に、やっぱりその女店員も『何言ってんの、この人?』とでも言うような訝しげな顔で、私の事を見返した。
また、だ。また、私の英語は通じなかった。『やっぱりね』私はフ−ッと一つため息をつくと、いつも通り自分の日本語の殻に戻り、その場を去ろうとした。
すると彼女は、私の腕をつかんで私を引き留めると、一枚の紙とペンを手渡してきた。 私は、普段と違う展開にとまどいながらも、“ノン、アルコ−ル、ビ−ル、プリ−ズ”とだけ書いて、彼女に渡した。
彼女は黙ってそれを見ると、そのビ−ルが置いてある棚の処まで、私の腕を引いて連れて行ってくれた。 私は、彼女の親切がとても嬉しかったので、「サンキュ−ベリ−マッチ!」
といつになく感情を込めてお礼を言った。 でも、彼女はまた訝しげな顔を私に向けただけだった。どういたしましてとも言わないし、ニコリとも笑わなかった。
『何故・・・?』私はその場を去りながら、ある一つの事実に気付いた。彼女は、耳と言葉に障害を持った人だったのだ。
『このまま帰っていいの?いつものように。』 彼女は私の声が聴こえないのに勇気を持って紙とペンを渡し、私の言葉を知ろうとしてくれた。だから私も、勇気を持って自分の気持ちを伝えなければ・・・。
“あなたの親切、本当にどうも有難う” 私は紙に英語でそう書くと、棚を整理し始めていた彼女に見せた。と、突然、それまで無表情だった彼女の顔が大きく崩れ、涙をこぼしながら私にしがみついてきた。私は言い知れぬ感動の中で、こんな言葉が胸の中に沸き上がってくるのを感じた。『私は今まで、自分の気持ちを伝えようとしなかっただけなんだ、だから、伝えよう、勇気を持って』
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