題名:ブリッジはいかが

名前:早川 洋樹さん

国名:イギリス
インタビュー

   「あなた七時半よ、そろそろ出掛けましょう」。赤レンガの家並の中、歩いて五分、いつものブリッジクラブに着く。コントラクトブリッジはトランプカードのゲームである。一テーブルに四人対面同士パートナーになり座る。四、五十人が一堂に会し、ワイン、ミルクティとカードの手札の推理、駆け引きを楽しむ。アガサクリスティが愛したごとく如何にもイギリス人が好むソーシャルゲームである。我々には麻雀があるさと言う輩にきっと彼らは言う。「何、金を賭けるってそれは我国ではゲームと呼ばないね」。このゲームはパートナーとのコミュニケーションの巧拙で勝負が決まる。故に夫婦でペアーを組むのは危険である。アメリカ中西部で帰宅後なお口論収まらず激昂して夫を撃ち殺した話も伝え聞く。のめり込むべからず。イギリス人は賢明にその愚を避ける。まずペアーを組まない。紳士危うきに近寄らずである。
   さわやかな初夏のその日、私達のテーブルで男性のミスに婦人の方がかみついた。「貴方どうしてそんな初歩的なミスをするの。信じられないわ、明晰な頭脳は書斎の引き出しの中なの」。怒、心頭の態、次のゲームに進めない。やがて男性が静かに諭した。「ミスはお互いの責任だろ、君の伴侶はさぞかし我慢強い紳士だね。同情いや尊敬に値するね。お目見えの栄に浴したいね」。  
   十一時過ぎゲームは終わり外に出る。バラが香り、夜半の冷気が上気した頬に心地良い。ふと、紳士が婦人をエスコートして車に乗り込む姿が目にはいる。先ほどのペアーである。夫婦であったのだ。我々の前を、軽く微笑み、会釈して車は去っていく。人前であくまで冷静、沈着。紳士のたしなみか。あっぱれ。  短いロンドンの夏、さすがに長い夜も更け行くころ、愛すべき彼らは着古したジャケットを脱ぎ、朝のタイムズを読み返し悠々と眠りにつくのか。今ごろ我が祖国、日いづる国では通勤ラッシュが始まる時間であろう。

 



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