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小学六年の夏休みにベルギーに引っ越した私は、こちらの学校では新学期に入ることになった。その上、生まれ月の関係で「飛び級」し、中学二年生になってしまった。来る直前の三ヶ月、英国人の三分の一のスピードで話す英会話教室に通いつめ、かろうじて自己紹介が出来る程度の実力しか持ち合わせていなかった私は、初めて教室に入ったときはさすがに腰を抜かした。
皆何を言っているのだろう…。
英国人の学校に通うとはいえ、学年かクラスに一人は日本人がいるだろうと期待していた。だがその期待は裏切られた。さらに彼らは、明らかに気が動転しているアジアの少年に向かって自己紹介を要求した。彼らは一生懸命ゆっくり話してくれたようだが、完璧に動転している私には何言っているのか全く分からなかった。人はどんどん集り、私はもはや驚きを超えて恐怖すら感じた。
始業式もろくにしないまま、いきなり英語の授業が始まった。先生は、約三百ページほどある分厚い小説を渡して、高らかに宣言した。
「来月にはこれを読み終わるように皆頑張れ!」
それらしいことを聞いたが、英語力の無い私にはどうすることも出来なかった。緊張、不安、恐怖、そして周りの生徒の威圧感が私の中で一つになってはじけた時、恥ずかしながらも声をあげて泣いてしまった。
「中学生なのに泣いてる」という言葉を予想していた私は、温かい目で見る彼らの対応に思わず感動し、さらに涙があふれてきた。彼らは、皆で寄せ書きを作ってくれたのだ。全く言葉を知らなかった私への小さな心遣いからか、名前だけを書いて無言の安心感を私に与えてくれた。私は心の不安が一気に消え去っていくのを感じた。
彼らはもう忘れているかもしれないが、私にとっては、忘れられないこと、そして、思いがけないことでもあった。私を支えた彼らの優しさと、言葉の壁を越えて仲良くしようとする心の豊かさを。そして忘れないでいよう。私もそうであり続けることを… |