海外で暮らす子どもたちは初めて学校や地域という外の世界に受け入れられたときの感動をしっかりと受け止めている。しかし、今回気になった
ことであるが、応募作品の多くに、挨拶されてうれしかった、見知らぬ人同士が会話しているのを見てびっくりした、日本では他人は目に映らない、などの表現が散見され、日本の子どもたちの世界が狭まっているのではないか、子どもたちを支え育む共同体が崩壊しているのではないだろう
か、そんな危惧を抱いてしまった。杞憂であって欲しいと思う。
佳作に入れた久保 綺沙良さんの『言葉って、テレパシー
!?
』は、フラ
ンス語がしゃべれなかったら大阪弁でいいよ、とお母さんにいわれ、どんどん話しかけてみる積極性がまことに頼もしい。『友だち』の石川 友さんも同様である。趣味のダンスが共通とはいえ、名前を聞き、学年を尋ね、と積み重ねていく姿勢が素晴らしい。心が定まれば、女の子は思ったよりも遥かに積極的になれるものだと感じてしまった。
最優秀賞に選んだ白坂 彩乃さんの『魔法の言葉』は、イタリアで知らない人に「チャオ」と挨拶されて嬉しかった体験から、自ら「チャオ」と
声をかけていく話なのだが、自分も相手も笑顔にする言葉の魔法に魅せら
れている作者のワクワクするような高揚感が伝わってくるようだ。人と人
を繋ぐ喜びや安心感が、見知らぬ土地で暮らすことになった子どもたちにどれほど大切か。単純かつ深遠な課題だと思う次第である。
また、優秀賞に選んだ渡邊 拓実君の『小さなトロフィー』は、自信のあったサッカーでフランスのチームに大敗し、小さなトロフィーしかもらえなかったが、フランス人に折り紙やケン玉を教えたら上手に出来ず、国によって得手不得手があると発見する話だが、
9
歳にしてそもそも不得手なことで対抗するには何倍もの努力が必要だと看破する見識を高く買いた
い。
もう一つの優秀賞には樋口 由実さんの『不便でもめげないドイツ人』
を選んだ。
A
T
M
が壊れていても電車が遅れていても笑ってすませるドイ
ツ人に比べ、便利に慣れている日本人は楽しく時間を過ごせない、ドイツ
の方が落ち着けると、述べているのだが、今の日本のゆとりのなさ、いらいら感をよく見据えた作品だ。
子どもたちの作品が素晴らしいのは、日本との違いを述べるにあたって、驚きをもって相違を発見し、同時に過去の自分を反省し、将来像を具体的に描けていることだ。彼らが戻る日本が、育んだ自画像を実現できる社会であって欲しい。
■ 最優秀賞 ■
『魔法の言葉』
白坂 彩乃
11
歳(イタリア)
「チャオ」と一声、勇気を出して口にしたとき、世界が魔法のように変わる。そんな感動が満ち溢れている。イタリアに来て、声をかけられた嬉し
さと日本では自分はこんなふうに挨拶したことがなかったという反省。そこからまっすぐに「チャオ」と声を自分からかけることにした一大決心を忘れないで欲しい。人も自分も笑顔にできる、という二重の喜びがあってこそ前に進めることも。
■ 優秀賞 ■
『不便でもめげないドイツ人』
樋口 由実
12
歳(ドイツ)
不便がゆえのゆとり、便利なるがためのいらだち、これは切り離せないらしい。とすればどこで折り合いをつけるかだが、心のゆとりだけは失って欲しくないと思う。人生をいかに楽しむか、そのコツをドイツ人に学ぶべきなのかもしれない。帰国すれば様々な進路があるが、いずれに進むにせよ、便利・不便の根底にあるものを発見していくことが今後の課題にな
るのだろうか。今を楽しみながら進んでいって欲しい。
■ 優秀賞 ■
『小さなトロフィー』
渡邊 拓実
9
歳(フランス)
たとえ負けてもいいから外に出ることだ。日本の仲間だけで楽しんでい
たのでは真の実力を知ることは、決してない。それが分かっただけでもサ
ッカーで負けた意義もあるというものだ。しかも、国民性による得手不得
手があるということも発見できたのだ。今後、互いの得手不得手を尊重しつ
つ、何倍も努力して不得手を克服していってくれるものと期待している。
深田祐介氏 プロフィール
〈ふかだ・ゆうすけ〉
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9
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1
年 東京生まれ。
日本航空に勤務のかたわら執筆活動を始める。
82
年「炎熱商人」で直木賞を受賞。「文学界」新人賞、大宅壮一ノンフィクション賞、
文芸春秋読者賞、04
年
11
月には
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H
P
研究所より山本七平賞特別賞受賞。
企業小説や海外経験を生かしたルポルタージュなど著書多数。 |