題名:旅について
名前:谷口 貴子さん
国名:フランス |
一年振りに故郷に行った。「行った」と言うと父は必ず不機嫌な顔をする。「おまえはここに帰ってくるのだ」という気配をありありと浮かばせて。しかし父の心に反して、私は外国で自分だけの居住地を構えようとしている。
真夏の高知は、カリブ海の小さな島のようにしっかりと暑い。湿気は暑さを体にまとわりつかせ、汗は絶え間なく背中を流れる。私は一ヶ月の間多くのフランス人のように、冬の間おあずけになっていた貴重な太陽を一瞬も逃すことなく体にしみ込ませた。皆から見れば私の行為は奇妙にうつったに違いない。私の手足と同じくらい黒いのは、漁師か土木作業員くらいなのだから。
四万十川は、子供の頃と同じように透明で冷たく、優しく私を受け入れてくれた。水の中に入ると、私は100%子供になってはしゃぐことができる。浮かんだり、潜ったり、まさしく「水を得た魚」。本当に、水の中にいるのが嬉しくてたまらないのだ。
私が泳ぐ度に、小魚が50匹ほど後に続く。急に振り返って泳ぎの方向を変えると、明らかに彼らは戸惑い、私の顔ぎりぎりまで近付いてくる。顔をつついてくるものもいる。しかし魚は普通に泳ぐととても素早いから、すぐに右へ左へとかわされていく。
息をするのも忘れて、魚と毎日のように遊んでいた。
フランスでの生活は、多くの外国人のように私にもそれなりのストレスを加えていたらしく、神経性の胃腸病を患いがっくり痩せた。夫との生活は「幸せ」としかいいようのないものなのに。高知での休暇の後、私は見違えるようになってパリに帰ってきた。
次は夫と、そして将来は家族の一員になるであろう子供達と行きたい私の故郷。それを両親に受け入れてほしいと、心から願う。
一番好きな国はどこかと聞かれたら、迷わず高知と答える。それ程自分の故郷が素晴らしいのを知っている。例え離れても、私にとって故郷は「悲しくうたふもの」でも「かへるところにあるまじや」でもないのだから。 |
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